記念すべきvol.1では、2025年10月に第78回広告電通賞フィルム広告部門(長尺Ⅰ)銀賞を受賞したPGF生命のCM「Time Letter」にスポットを当てます。
結婚式で父が読みあげるスピーチ。それは5年前の母が、書いたものでした。 母は書くことが苦手で億劫になりながらも、娘が生まれてからを振り返り、娘の将来への想いを綴っていきます。 数年後、結婚式を迎えた娘に、母の「未来への手紙」を読み上げる父の姿。 母は認知症を発症して、娘のことも分からなくなっていました。 それでも母の「未来への手紙」から、娘は母の当時の想いに触れることとなります。
監督、キャスティング、音楽、衣装とKOSEIのメンバーが多く関わっている同作品。この「キャスト編」では、ディレクター・高島夏来とキャスティング・吉田千恵美の2人が、物語の主役ともいえる認知症の母親役を演じた俳優・大島葉子さんをお招きし、監督・演者・キャスティングの立場から、それぞれの思いを話しました。

オーディションも撮影現場も、フィジカルな部分が大事
ー作品のオンエア後、何か反響はありましたか?
大島 SNSでもトレインチャンネルで観た方々の「朝から泣けた」「朝から泣かすな」みたいなポストが結構あったみたいですね。
高島 そうなんですよ。「泣いた」っていう感想をたくさん頂いて。自分が演出した作品で「感動して泣きました」と言われたのは、実は初めてかも。それはキャストの力あってこそだなと改めて感じています。ところで、葉子さんは今回私と初めて仕事をしてみて、何か感じたことはありますか? やりづらいなとか(笑)
大島 「もっと演出してくれて全然良かったのになぁ」とは思いました。

高島 なるほど…! そこは“葉子さんから出てくるお芝居を大切にしたい”という意識が強かったのかも知れないなぁ…。
大島 あと、高島さんが「特殊メイクはしたくない」と言ってくださったと聞いたんですが、そこは私も同感で。じゃあ、どうやって時間経過と老いを表現するかとなった際に「姿勢」じゃないかなと思って猫背で演じたんです。でもその辺が、ちゃんと表現できてるのか自分ではわからないから。
高島 私が「今の良かったです」とか、言った方が良かったですよね?
大島 役者って、褒めてもらいたいんです(笑)。監督がオッケー!と言ったら、オッケーなんだと思うけど「今のすごくよかった」とか言われたら、もう、めっちゃ上がるから。次ももっと頑張ろうってなる。
高島 すっごい反省…。メモだメモだ。良い芝居が撮れたと思っていても、同時に使い所とか編集点とか頭の中でグルグル考えてるから、つい余裕がなくなっちゃうんですよねぇ…。

大島 分かります。現場中は忙しいですもんね。でも撮影がオールアップした際に、高島さん握手をしてくれましたよね。それすごく嬉しいの。最後にそういう風にやってくれたら、ちゃんと役目を果たせたって思えるっていうか。
高島 そうですよね。握手してましたね、私。良かった(笑)。
ー吉田さんはキャスティングとして、どういった瞬間が1番嬉しいですか?
吉田 やっぱり、無事に撮影が終わってくれた瞬間ですかね。途中でキャストが体調不良になることもあったりするので、トラブルなく終わるとホッとします。
高島 今回苦労したことは?
吉田 本作では新婦役の泣きの演技がキモだったので、社内のみんなからとにかく沢山の情報を集めてキャスト候補者を集めました。これまでお付き合いのなかった事務所も含め、100社は連絡したんじゃないでしょうか。
高島 100社!? それ、今知りました。

吉田 私、前職がずっと音楽系だったので映像の仕事はゼロからのスタートということもあって、他のスタッフに色々と教わりながらやっていました。
高島 へぇ、音楽系だったんですね。
吉田 そうなんですよ。なので、この作品の音楽プロデューサーの田中潤さんとも、以前からの知り合いで。
高島 そんな繋がりが!
吉田 ラジオで聴いた「ゲントウキ」(現田中のソロプロジェクト)の音楽に耳を奪われて、当時の会社で繋いでもらい、後にキャスティングの仕事を始めた私に連絡をくれたきっかけで、コセイ所属のメンバーになったんですよね。
ー新婦役、父親役のオーディションはどんな様子でしたか?
吉田 皆さん、泣きながらオーディション会場を退出するので、すごい光景で(笑)
高島 たしかに(笑)。私は、泣きのオーディションをするのが初めてだったんですが、こっちももらい泣きしそうで大変でした。特に父親役は、実際に奥さんを亡くされていたり、奥さんが入院中という方も結構いらっしゃって、流す涙が演技なのか、本気で泣いてるのかが分からないくらいリアルで、すごくエモーショナルなオーディションでした。

大島 オーディションといえば、最近、監督不在でビデオを撮って終わりっていうパターンがあるじゃないですか。「ビデオだけで私の何がわかるの?」って思うわけです。画面を通しての映りをチェックしているのはわかるんですが、やっぱり監督と対面でやる時の方が受かる確率が高い。
吉田 そうですよね。ビデオだけだと、自分が考えた演技をやって終わりですよね。そこに監督がいれば「こういう演技も見たい」というリクエストにも応えることができるるし、色々な演技を見せることが出来ますからね。
大島 そうそう。あと雑談ができれば人となりも伝わると思うんです。
高島 私もビデオオーディションはたまにやるので耳が痛いのですが…
以前、自分が立ち会わずに選んだキャストさんが、かなり特殊な髪質でヘアメイクさんを困らせてしまった経験があって。やはり自分の目でしっかり見ないとダメですね。ビデオオーディションにして、仕事を最適化しようと思ったのが間違いでした。
ー最適化という言葉に逃げてはいけないかもしれませんね。
吉田 そうですね。私も気をつけないと。
大島 実際に会って、お互いを知れば信頼も生まれますし。
高島 オーディションも撮影現場も、フィジカルな部分が大事ってことですね。
<プロフィール>
高島夏来/ディレクター(KOSEI)
東北新社を経て2019年に独立。長岡造形大学非常勤講師。 一児の母。
大島葉子さん/俳優
モデルを経て「影shadow」(監督:河瀬直美)で主演し映画デビュー。国内外問わず俳優として活動中。「おばあちゃんの秘密」(監督:今関あきよし)2026年6月公開予定。
吉田 千恵美/キャスティング(KOSEI)
石川県出身。レコード会社、音楽プロダクション、ライブ制作、ラジオ番組制作を経てコセイへ。一期一会を大切に、音と映像の違いを実感する毎日。
PHOTO:ワタナベミカ(KOSEI)
TEXT:TOMMY(NOHOHON-PRODUCTION)
COMPOSITION:いわおかあかね(KOSEI)
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